子どもに教えてもらった道。

夏の夕暮れの田んぼ道を、自転車で先を走る中学生の子どもと後ろを追う大人の姿を描いたエッセイ記事のアイキャッチ Uncategorized
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「カブトムシを捕りに行こう。」

そう誘ってきたのは、息子でした。

昔なら私が「連れて行ってあげる」立場でしたが、この日は違います。

「友達に教えてもらった場所があるんだ。」

そう言って、自転車の先頭を走り始めました。

目的地へ向かう途中、私は何気なく言いました。

「国道の方が近いんじゃない?」

すると息子は、振り返りもせずに答えます。

「こっちの方が楽しい。」

そう言って入っていったのは、車も通れない細い道でした。

畑に囲まれた一本道。

夕方のやわらかい風。

蝉の声。

ゆっくりと沈み始めた夏の空。

15年近くこの街に住んでいるのに、こんな景色があったことを私は知りませんでした。

普段なら通らない道です。

目的地へ向かうなら、もっと近い道があります。

でも、その日見た景色は、近道では出会えない景色でした。

畑道を自転車で走る親子
畑に囲まれた一本道を、自転車で走っていきます。

しばらく自転車を走らせると、あたりはすっかり暗くなっていました。

街灯のない公園に着くと、自転車を降ります。

「こっち。」

息子は慣れた様子で歩き始めました。

懐中電灯を照らしながら、真っ暗な公園の中を数十メートル歩きます。

周りは木の葉が揺れる音と、虫の鳴き声だけ。

そして、息子が立ち止まりました。

「ここ。」

懐中電灯の光が一本の木を照らします。

すると、その光の中に黒く光る影が浮かび上がりました。

一匹。

二匹。

三匹。

数えてみると、五匹ほどのカブトムシが木に集まっています。

こんな光景を見るのは初めてでした。

息子も嬉しそうでしたが、一番テンションが上がっていたのは、たぶん私です。

思わず何枚も写真を撮ってしまいました(笑)。

木に集まる複数のカブトムシ
懐中電灯の光の中に、カブトムシが浮かび上がりました。

帰り道、ふと思いました。

この場所は、きっとネットで調べて見つけた場所ではありません。

友達と自転車で走り回って。

寄り道をして。

「こっち行ってみよう。」

そんな小さな冒険を繰り返しながら見つけた場所なんだと思います。

大人になると、何かを調べるときは、まず検索します。

地図を開いて、一番近い道を探します。

効率よく、最短距離で目的地へ向かいます。

それが当たり前になっていました。

でも、子どもは違います。

寄り道をして。

遊びながら進んで。

「面白そう。」

その気持ちだけで道を選びます。

だからこそ、大人が知らない景色や、大人が見つけられない場所に出会えるのかもしれません。

昨日、息子に教えてもらったのは、カブトムシがいる場所ではありませんでした。

「近い道」より、「楽しい道」。

そんな、とてもシンプルな考え方です。

気が付けば、子どもに道を教えてもらうようになっていました。

親が何でも知っている時期は、いつの間にか終わっていたようです。

少し寂しい。

でも、それ以上に嬉しい。

夏の夕方。

あの日の帰り道は、行きより少しだけ、景色が違って見えました。

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