デザインを学ぶと、最初に教わる基本原則があります。
近接。
整列。
反復。
コントラスト。
いわゆる「デザインの4原則」です。
情報をグループに分ける。
要素の位置をそろえる。
同じルールを繰り返す。
大切な部分に強弱をつける。
この4つを意識するだけでも、デザインはかなり見やすくなります。
私自身、デザインの仕事をするときは、今でもこの原則を使っています。
時代が変わっても、大切な考え方であることは変わりません。
ただ、AIを使ってデザインを作る機会が増えて、ひとつ気づいたことがあります。
この4原則は、AIもかなり得意なのです。
AIは、デザインをきれいに整えてくれる
文章や画像、グラフなどの素材をAIに渡すと、それらしい形にまとめてくれます。
情報のまとまりを判断し、近い場所に配置する。
文字や画像の位置をそろえる。
色や形のルールを繰り返す。
タイトルや数字を大きくして、強弱をつける。
もちろん、毎回そのまま使えるわけではありません。
細かな調整や確認は必要です。
それでも、以前ならデザイナーが時間をかけて整えていた部分を、AIがかなりの速さで形にしてくれるようになりました。
情報をきれいに整理する。
見栄えよく配置する。
一枚のデザインとして成立させる。
こうした作業は、AIがどんどん得意になっています。
一方で、AIが作ったデザインを見ていると、
「きれいだけれど、なんとなく伝わりにくい」
と感じることがあります。
見た目が崩れているわけではありません。
文字も読めます。
レイアウトも整っています。
それなのに、何を一番伝えたいのかが分かりにくい。
最初はデザインの問題だと思っていました。
しかし、何度か同じような経験をするうちに、原因は別のところにあると気づきました。
問題は、情報量でした。
AIは、全部入りでもそれらしくまとめてしまう
AIは、たくさんの情報を渡しても、ある程度きれいに整理してくれます。
文章が多ければ、文字を小さくする。
要素が多ければ、枠やカードに分ける。
グラフが複数あれば、規則正しく並べる。
頼んだ内容を、できる限り残そうとしてくれます。
これは、とても便利なことです。
ただし、きれいに収まっていることと、伝わることは同じではありません。
デザインの中に情報が入っているからといって、それを見た人が理解できるとは限らない。
むしろ、きれいに整理されているからこそ、情報が多すぎることに気づきにくい場合もあります。
「全部入っています」
「見た目も整っています」
それでも、見る人の頭には何も残らない。
そんなデザインは、珍しくありません。
デザイナーは、見る人の状況を想像している
デザインの仕事では、よく「ユーザー視点が大切」と言われます。
もちろん、その通りです。
ただ、実際に私たちがやっていることは、もう少し曖昧で、人間的なものかもしれません。
このデザインは、どんな場所で見られるのか。
見る人は、立っているのか、座っているのか。
何秒くらい見てもらえるのか。
もともと興味がある人なのか。
たまたま目に入っただけの人なのか。
説明を聞きながら見るのか。
デザインだけを単独で見るのか。
そうした状況を想像しながら、情報を足したり、減らしたりしています。
同じ情報でも、使われる場所が変われば、見せ方も変わります。
正解の情報量は、ひとつではありません。
10年分の市場データを、全部載せるべきか
たとえば、商談で使用する営業資料を作るとします。
クライアントから、10年間の市場データを渡されました。
「せっかくなので、10年分すべて載せたい」
という要望は、よくあります。
どの数字も大切です。
苦労して集めたデータなので、削りたくない気持ちも分かります。
AIに依頼すれば、10年分の数字を使って、きれいな折れ線グラフを作ってくれるでしょう。
年ごとの違いも、色や点を使って整理してくれます。
デザインとしては成立します。
しかし、その資料を使う営業担当者の説明時間が、全部で10分だったらどうでしょうか。
ひとつのグラフを見てもらえる時間は、おそらく数秒です。
相手は、細かな数値の変化を追う余裕がありません。
その場で伝えたいことが、
「市場が10年前より大きく伸びている」
という一点なら、10年分すべてを載せる必要はないかもしれません。
10年前と今年。
その2つだけを大きく比較した方が、変化は一瞬で伝わります。
情報は減っています。
しかし、伝わる内容は、むしろ明確になります。
展示会パネルなら、答えは変わる
では、同じ市場データを展示会のパネルに使う場合はどうでしょうか。
今度は、10年前と今年だけを載せればよいとは限りません。
展示会では、興味を持った人がパネルの前で立ち止まります。
すぐ横に担当者がいて、説明を加えられることもあります。
数十秒、場合によっては数分見てもらえるかもしれません。
それなら、1年ごとの推移を載せる意味があります。
市場が大きく動いた年に、何があったのか。
新しい商品が登場した。
制度が変わった。
社会的な出来事があった。
そうした情報を年表のように加えれば、数字の背景まで理解してもらえます。
商談資料では削った情報が、展示会では価値のある情報になります。
扱っているデータは同じです。
違うのは、見る人と、見る場所と、見る時間です。
大切なのは、何を載せるかより、どう見られるか
デザインを作るとき、私たちはつい、
「何を載せるか」
から考えてしまいます。
この文章を入れる。
この写真を使う。
このグラフも必要。
この説明も残したい。
素材を集めてから、それらをどう配置するか考えます。
AIも、渡された素材をもとにデザインを作ります。
だから、素材が多ければ、多いなりにまとめようとします。
しかし、本来はその前に考えることがあります。
これは、誰が見るのか。
どこで見るのか。
どれくらいの時間、見てもらえるのか。
見たあとに、何を感じてほしいのか。
どんな行動につなげたいのか。
そこを想像すると、必要な情報量が見えてきます。
情報を増やした方がよい場合もあります。
説明を加えた方が理解しやすくなることもあるでしょう。
反対に、思い切って削った方が伝わる場合もあります。
デザインの役割は、すべての情報を載せることではありません。
必要な情報が、必要な人に届く状態を作ることです。
AI時代の「+1」は、想像する力
近接。
整列。
反復。
コントラスト。
デザインの4原則は、これからも大切です。
AIを使う時代になっても、なくなるものではありません。
むしろAIによって、これらの原則に沿ったデザインは、以前より簡単に作れるようになっていくと思います。
だからこそ、デザイナーの役割も少しずつ変わっていきます。
きれいに整えることだけではなく、
見る人の状況を想像すること。
限られた時間の中で、何を伝えるべきかを考えること。
そして、その想像をもとに、残す情報と削る情報を決めること。
AI時代のデザイン4原則に加える「+1」があるとしたら、私は「想像する力」だと思います。
そして、想像した結果として必要になるのが、削る勇気です。
AIは、渡した情報をきれいに整えてくれます。
しかし、何を渡すのか。
何を残し、何を削るのか。
その判断まで含めて、デザインなのだと思います。

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